イギリスのEU離脱の影響

昨日は歴史的な一日になりそうですね。テレビでも報道されていますが、イギリスでEUからの離脱の是非を問う国民投票が行われ、僅差ながら離脱に賛成という結果になりました。その影響で、イギリスの通貨であるポンドは急落し、金の相場は上昇し、円も値上がりしました。日本の株価も急落し、週明けにはもっと荒れるでしょうから、まったく今後の見通しが立ちません。なぜ、イギリスがEUから抜けるというだけで、これほどの騒ぎになっているのかというと、イギリス一国だけの問題じゃなく、世界的な景気の停滞をもたらす恐れがあるためです。

EU加盟国同士の間では、基本的に人やモノが自由に行き来することができます。つまりEC加盟国内では輸出入に関税がかからないのです。そのため、海外進出している日本などの多国籍企業の多くは、イギリスを活動拠点としてヨーロッパの国々と商売をしてきたわけです。しかし、イギリスがEUを抜けてしまえば、イギリスからヨーロッパの国々に輸出したときに関税がかかるようになります。イギリスを拠点とするメリットが失われるなら、必然的にドイツなりフランスなりに移転する事になるでしょう。イギリスから多くの企業が脱出してしてしまいますし、それらの企業で働いていたイギリス人たちは職を失い、イギリスの景気が悪化するのは明白です。当然、それらの企業と取引していたヨーロッパの国々でも混乱がおこるでしょう。そのため、イギリスの通貨であるポンドは大幅に下がりますし、EUの通貨のユーロにも悪影響が出ます。

ポンド、ユーロが安くなる事に加え、イギリスをヨーロッパにおける活動拠点としてきた多国籍企業や、それらと取引していた企業もダメージを受け、広範囲にわたって経済が停滞することになりそうなので、投資家たちは安全資産を買いに動きます。安全資産といえば金や円です。テレビなどでも一部報道されているように、久しぶりに金が値上がりしたというのはそのためですね。1オンスあたり1250ドル前後だった金の価格は、日本時間で昨日の午前11時ころ、離脱優勢がわかったとたんに上がり始めて、結果がでた午後1時ころには1350ドルを越える値を付けた後に少し落ち着いて1310ドル程度になりました。わずか2時間ほどで5%も上がったのですから凄いことです。

ただ、注意しなければならないのは、金の価格は為替の影響も受ける事です。ドル建てだと5%上昇した金価格ですが、ポンド建てだと10%以上上昇しています。それだけポンドが安くなったために、ドル建てよりも大幅にあがったわけです。じゃあ、逆に高くなった円建てでみてみると、1%程度上昇しただけにすぎません。金そのものの価値が上がっても、円が高くなったら国内の金の価格は思ったほど上がらない、場合によっては下がってしまいます。円高になるとガソリンが安くなり、円安になるとガソリンが高くなるのと同じ理屈ですね。金も円も安全資産という同じポジションである限り、世界的な混乱だからと言って国内の金価格が急激に上がることはなさそうです。

さて、問題はこの混乱がいつまで続くか?どこまで広がるか?です。イギリス政府にしっかりとした力があれば、イギリスとEU加盟国との間に自由貿易協定を結んで、EU加盟時代と同じような貿易ができる環境を作ることが可能でしょう。もちろん、ドイツやフランスなどは反対するかもしれませんが、そこはイギリス政府の政治力の見せ所です。イギリスのキャメロン首相は辞任するようですが、実際に離脱するまでの間に後任者が上手くまとめてくれる見込みはあります。そうなれば、混乱は長続きせずに終息に向かうでしょう。当然、安全資産にこだわる必要がなくなるので、金や円の相場は元に戻ると考えられます。しかし、そのままでは終わらないような雰囲気が漂っています。

問題は、イギリスが存亡の危機に立たされていることです。経済的な危機ではなく、まさにイギリスそのものがなくなる可能性が出てきたのです。もともと、イギリスと呼んでいますが、正式名称はグレートブリテン及び北部アイルランド連合王国です。なぜ連合王国というのか?というとグレートブリテン島のイングランド、ウェールズ、スコットランドの3つにアイルランドの北部を加えた4つの国の連合王国だからです。それぞれが別の国だったのは大昔の事ですが、今でも地域差はあるようでスコットランドの独立を望む声は大きいのです。スコットランドではEU残留を望む人が多かったので、この機会に独立運動が活発になるのではないかと考えられます。そうなれば歴史的にイングランドとの付き合いの長いウェールズはともかく、北部アイルランドもイギリスを離れる可能性も見えてきます。まさにイギリス存亡の危機です。

また、イギリスが抜けることで、EU自体の結束も緩む可能性があります。イギリスが抜ける分、EU加盟国にかかる負担はその分だけ重くなります。EUにはギリシャだけでなく、爆弾を抱えた国もあるし、さらにイギリスを離脱に追い込んだ移民問題もある。一抜けしたイギリスに続こうとする国が出てきても不思議じゃない。イギリスが抜けるだけでこの騒ぎなのですから、さらに抜ける国が増えたら、世界経済に及ぼす影響はリーマンショックに匹敵する最悪の事態となるでしょう。

そんなわけで、今後の相場の動きが読みにくい状況になってきました。もちろん、国民投票で離脱に賛成の意見が多かったからといって、必ずしもイギリスがEUを抜けるとは限りません。冷静になってよく検討した結果、離脱すべきではないとなる可能性もあります。離脱が現実となったとしても、今まで通りにイギリスがヨーロッパの国々と自由貿易できるようになり、大きな混乱なく収まる可能性も高いと思います。わたし自身は、混乱が長引かないと予想しています。イギリスがなくなり、EUが分裂するという最悪の展開になれば、困るのはイギリスやヨーロッパの国々に住む人たちなのですから、さすがにそんな選択をすることはないと信じたいです。今後どうなるか注目していきましょう。


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