価値観の転換期

古物の業界にいると、今は価値観の転換期だとしみじみ思います。昔は価値があるとされていたモノが無価値になり、今までになかったモノに価値を見出す時代になってきています。

CVDダイヤモンドというダイヤがあります。科学的・人工的に作られた合成ダイヤです。キュービックジルコニアやモアサナイトのような模造品ではなく、合成ではあるもののダイヤモンドなので、まず見分けるのは不可能です。わたしたちが使っている10倍のルーペで見ても判別は難しく、顕微鏡ならなんとかわかる程度の違いしかありません。むしろ、天然で形成されるダイヤモンドよりも綺麗で、天然では希少なピンクや青色のダイヤが作れてしまいます。
今までは、合成ダイヤは天然ダイヤとは別物として宝飾に使われることがほとんどありませんでしたが、2018年からダイヤの大元締めデ・ビアス社が宝飾用のCVDダイヤモンドの取り扱いを開始しました。もちろん天然のダイヤよりもはるかに安価ではありますが、合成ダイヤが宝飾品として認められるようになったわけです。そしてわたしたち古物の業界も、合成ダイヤを買取するようになってきて、その評価は高まってきているようです。肉眼では区別できず、天然石よりも綺麗なのですから無理もありません。

このダイヤのように、天然のモノと人工のモノとが比較され、天然のモノが良しとされていた価値観が変わりつつあるのが今の時代です。他にも例えば養殖の魚などもそうです。確かに天然の魚の方が美味しいでしょう。しかし、天然の魚は獲れた時期や場所、個体差によって味が変わるので調理も難しい。寿司職人や板前さんが長年の修業を必要とするわけです。一方で養殖の魚は脂の乗りが良いし品質のばらつきも少ないので、調理も難しくなく、誰でも手軽においしく食べられる。また、養殖の技術も向上しており、エサに果物を加えるなどの特別な養殖方法によってブランド化するケースもあり、天然モノより高価で取引される事も少なくありません。

最近話題のAIもそう。AIによって自動で文章や画像を生成できるようになりました。オリジナリティが足りないとか、人の手による温かみがないとかないとか言われますが、そんな漠然とした違いを把握できる人がどれだけいる事でしょうか?遠からずAIによって作られた小説や漫画が書店にあふれるかもしれません。いや、むしろ書店そのものもなくなり、モノでなくスマホなどのデータだけになるかもしれませんね。他にも手作りの伝統工芸品や美術品が機械化されたり3Dプリンタで出力されるようになり、手作りでなくなっていく事でしょう。天然である事や手作りである事にこだわらない時代になってきているのです。

もちろん、価値観が変わりつつあるとはいえ、天然ダイヤや天然の魚などの価値が完全に失われるとは思いません。ただ、評価が二極化していく事になると思います。天然のダイヤを求める人は、天然の中でもより大きく美しいダイヤを求めるようになり、大多数の人は合成のダイヤで良しとするようになるでしょう。味にこだわる人は天然の素材を一流の板前さんに調理してもらう事を望み、大多数の人はお手軽な養殖の素材で満足する。その結果、そこそこ程度の品質の天然モノの価値が暴落して人工のモノに埋もれてしまう事になります。

これからCVDダイヤモンドがますます普及して、天然ダイヤの価値が下がっていく事が予想されます。そして、ダイヤでさえ合成で良いとなれば、ルビーなどの他の宝石も天然にこだわらなくなっていく事でしょう。もし使っていない宝石類などありましたら、お早めに当店にご相談ください。


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